対象建築:ホテル+多目的商業施設
作品をつくるなかで何百枚もの「旧要塞監獄」の画像をみました。今の時代に生きて良かったと思います。
事情があるにせよ、監視された空間で生きなければならない「限りのない時間」。レンガ作りの要塞には、
いたるところに「R」の形状と鉄格子があり、重圧を感じる。牢獄の中からは、空の青さはわかるけど、
空の広さがわからない。
この作品のRモニュメント(正面)は、現代の自由な世界を表現したもので、この場所を訪れた人たちが
通り抜けるだけで「新たな空間」の再発見ができればと意識しました。
講評
今回のテーマは、今までのコンペで一番「ストーリー」が作りやすいものだと思います。コンセプト説明文を拝読すると本作は特に、ストーリーのあるムービーになれたはずのコンセプトがありつつ、そこにトライしていないのでとても勿体ないように感じました。ストーリーというのはかなり単純化して言うと「ネガティブからポジティブに変わる変化」というようにも言えると思います。「『R』の形状と鉄格子の重圧」から「現代の解放された自由な世界」への変化、その対比がしっかり演出出来ていたら、ドラマチックな作品になったのではと思いました。0:14〜0:18のところで旧監獄の閉鎖的な空間を一瞬だけ見せていますが、まずあまりにもカットが短いのと、躍動感のあるカメラワークで撮影しており、また音楽も牧歌的なものなので閉塞感や重圧は演出出来ていません。この2つのようなカットを冒頭に持ってきてしっかり「重圧」を強調した形で見せていれば、それ以降で見せる現代の新しい建築物の自由さ、開放感が対比としてより良い形で表現出来たのではないかと思います。また、全体を通してカメラの移動が速すぎて、受け手としては何を見せたいのかのポイントを掴んで鑑賞するのが難しい印象です。