対象建築:ホテル+多目的商業施設
長きに渡り様々な国々の支配下に置かれてきた歴史を持つエストニアで、国民は民族の誇りを胸に秘め、祖国を取り戻す日を希望に生き続けてきた。1991年のエストニア独立を国民達は祖国の歌を高らかに合唱する事で喜びを分かち合い、祖国の誇りを取り戻した。
この歴史を未来の子孫達にも伝承出来るよう、負の遺産であるパタレイ収容所を改修して人々が集う場にするとともに、その隣接地に人々が集う屋内ホールと屋根に野外劇場空間を持つ新しい建築を新設し、海岸沿いにも野外ステージなどを整備した外部空間を用意し、エストニア国民はもちろん、世界中から人々が集まり、負の遺産とともにエストニアの歴史を感じ、祖国の歌を合唱して独立時のあの喜びと感動を分かち合う、一大フェスティバルを恒例化出来る場を計画した。
エストニアが永遠に幸福と平和に包まれた国であり続け、国民が祖国の歌を合唱し続けることが出来ることを願い、想いを込めた。
講評
私個人としては、今回のコンペ作品の中で本作が映像作品として最も優れていると感じました。建築デザインが募集要件を満たしていないということで選考外となってしまったそうですが、映像という視点で言えば、正直、格段に優れていると思います。まず、構成が非常に王道で、旧建築物から新建築物への物語がドラマチックに分かりやすく伝わってきます。旧建築の負のイメージから初めつつも、負の部分も情緒と美しさを損なわない形で描きつつ、次には旧建築と新建築の両者とその位置関係がはっきり分かるエアリアルカメラのワイドショット、続いて新建築のみのワイドからそのディテールへ…と、見ていてもしっかりショットの順番がこうであることの意図が伝わってきます。各ショットも、ゆったりして落ち着いて見られるカメラワークと、トランジションの使用を最小限に抑えた見やすい編集で安心して見ていられました。光と影の使い方も高いセンスが感じられます。また、配置した大勢の人々が非常に効果的で、ここに生まれるであろう人間模様をしっかりと感じられました。建築物のテクスチュア、質感がしっかり作り込まれているのも、歴史ある街と新しい建築の共存がイメージできて非常に効果的ですね。音楽は、このために作られたのでしょうか、それとも既存のものを編集されたのでしょうか。ストーリーの展開とエンディングにキッチリタイミングが合っていて素敵です。唯一残念なことがあるのですが、これだけ映像が雄弁に語っているのですから、全体を通して字幕のように入るテロップは蛇足だったという印象です…。文字が入るとどうしても人はそこに目が行ってしまいますし、文字を読むのにはそれなりの秒数、視線がそこに行ってしまってその間は映像を見ていないことになります。ここは自信を持って映像だけで勝負された方が、本作にとっては遥かに良いやり方ではないかと思いました。