対象建築:ホテル+多目的商業施設
中心性の強い形態の既存建物。外敵からの防衛や囚人の監視に適化された極めて機能的な形態である。
これはまさに、戦争や独裁者による支配という負の時代を象徴している。
独裁や支配は、「1つの中心=1つの価値観」のみ許容する社会の現れである。
この地を、過去と向き合い未来へ継承する場として解き放つため、
「多数の中心=多様な価値観=自由」を象徴する建築をつくりだす。
多数の中心を結ぶ軽やかな膜の屋根を全体に架け、パタレイの持つ強い中心性を融解しつつ、
賑わいの拠り所となる新たな建物とパタレイが共に人々に開かれる場を提案する。
敷地の高低差や膜屋根の高さの変化を活かし、新たな建物と既存建物との隙間にさまざまなスケールの空間を生み出した。
既存の中庭や海岸線では、柔らかな光に包まれた風景が広がる。
多様な価値観を内包したパタレイは、自由のシンボルとしてこの地に在り続ける。
講評
波の音と鳥の羽音だけの効果音に乗せて冒頭でたっぷり23秒かけて雰囲気を作った上でそこから音楽付きの本題へ、という構成は、効果的ですし良いと感じました。ワイドショットの全体像から徐々にディテールへ、そしてエンディングでまた全体像のワイドショットへ引いていくという定石に忠実な組み立て方も、見やすくて良いと思います。ただ、部屋内を見せる辺りの数カットについては、カメラを動かさず静的なショットで見せた方がみやすさ、そして雰囲気の伝わりやすさの両方の意味でベターだったかも知れません。そして…これは本作品のテーマに関わる根本的な部分なのですが、実は、私は、何度か繰り返し見てようやく、膜の屋根が旧監獄要塞までも含めて包んでいるということに気付きました。良く見れば屋根の下にしっかり旧建築物があるのが分かるのですが、初見だとどこからが新しい建築物か知らないので、案外分からないものだと思います。旧建築物まで屋根で覆ってしまうという大胆なアイデアなのですから、そこは丁寧に伝えるという意味で、屋根のない状態〜覆われた状態へのトランジションを映像として見せた方が良かったのではと感じました。また、解説文にある「多数の中心=多様な価値観=自由」という概念的なテーマは、記号化するなりしないと伝わってこないのではと思います。