対象建築:ホテル+多目的商業施設
Vanusはエストニア語で「時代」を意味する。負の遺産であるパタレイに隣接する敷地に対し、「過去と未来の時代を結ぶ」というコンセプトで商業、宿泊、ギャラリーから構成される複合施設を提案する。
モダンな外観の建物内部に、パタレイと繋がる古風なレンガ造りのトンネル状ギャラリーを挿入し、ファサードは基壇をレンガのカーテンウォール上部をガラススキンにすることで、過去という基盤から勢いよく未来へと繋がる様を表現する。また、パタレイとの調和を図るように三角形の抜き抜けを作りガラス屋根をかける。人々の活動は吹き抜けを中心に外部空間へと溢れ出し、活気に満ちた雰囲気を作り出す。
パタレイでの過去を慈しむ「祈りの場」から、独立のきっかけとなった歌と踊りの祭典が開催される「祝いの場」、未来を眺める最上階の展望台へと、トンネル状のギャラリーを上って行くことで、非日常的な時空間を体験することができる。
講評
まず、建築については門外漢の私でも、本作品の建築デザインがコンセプト的にもデザイン的にも優れたものであるということは感じました。それだけに、コンセプト、テーマを映像にしっかり落とし込んでムービーを作ったら素晴らしい作品が作れたはずと思い、勿体ない印象が残ってしまっています。解説文を拝読するとコンセプトは「過去と未来の時代を結ぶ」ということですが、残念ながらそのコンセプトがムービーからはほとんど伝わって来ない印象です。恐らくそのコンセプトを最も端的に象徴するのはパタレイから新建築物へと繋がるトンネルなのではと思いますが(作品タイトルにも「トンネル」と入っていますし)、そうであれば本来、前半部分で旧要塞監獄内部〜新建築の内部と、トンネルを移動するカットなりが必要ではないでしょうか。カメラワークも、流れるような自然な動きではなく縦の動きと横の動きが混在していたりして少し見づらい印象です。カット間の繋ぎに不要なフォーカスイン・アウトが入っているのも見ていて邪魔に感じますが、これも、それぞれのカットに負わせたい役割と、カット同士の関係性まで考えて構成されていないものを無理に繋いでいるためのものかと感じてしまいます。また、映像を見れば伝わってくるはずの情感を、マンションポエムのように入るテロップがむしろ壊していて蛇足な印象を持ってしまいますし、小さい文字で左下に入っているためそちらに視線が誘導されてしまい、その間、あまり映像が頭に入ってこなくなってしまっています。0:13の辺りにタイトルテロップが入っているところも、白い三角形オブジェの上に白いテロップが乗っているため判読出来ず、見る方にとって冒頭でストレスを与えてしまっています。コンペの回数を重ねて作品全体で映像演出、編集の技術が上がっている中、この作品についてはその辺りが初期のころのレベルで止まってしまっている印象を受けてしまいました。きっと建築デザインの方に注力されたためと想像しますが、少し残念です。