対象建築:ホテル+多目的商業施設
エストニアが厳しい時代から立直り、新しい未来をつくりだそうとする姿勢は現代世界の模範となりつつあります。PATAREIは負の記憶を継承し克服していくペイシェントなエストニアの象徴となるでしょう。その隣に建つ建築は新しいフロンティアを切り開いていくチャレンジングなエストニアを象徴すべきと考えました。ビジネス、商業、宿泊それぞれの機能がシームレスに繋がる構成を優しく包み込む大屋根は、多様な人々を受け入れるエストニアの精神そのものです。建築の構法は列柱、組積造、大屋根など原初的な形式をアセンブルしており、幾度にわたり支配されてきた歴史を通し混沌としたこの国の文化をもう一度基本から形づくることを意図しています。ルーバー状の垂木は位置によって視線の透過を調整する役割を担います。PATAREIとの間のストリートは緩やかな弧を描くガラス屋根によって圧迫感を与えることなく広場のような様相を見せます。
講評
今回の主旨を踏まえて、シンプルですが基本に忠実な構成と演出に好感が持てる作品です。ムービー作品全体を通してパタレイ旧要塞監獄をきっちり意識し、フレーム内にも新建築物だけでなく旧要塞監獄のビジュアルも入れつつ構図を取っているのが良いです。ただ、建築物の隅々まで全部見せたい余りにカットを割らずずっとカメラ移動で見せていくので、カメラワークが忙しすぎて初見だと何を見せられているのか頭に入って来ない印象です。テロップも、しっかり大きめに入っているのですが、短い秒数の間に左下に視線が行ってしまい、その間は建築デザインが頭に入って来ませんので、センターに入れるか、少なくとももう少し視線が無理なく行く左上に配置した方がベターではないかと思います。あとは少し欲を言うならばですが、歴史的建築物という質感、素材感が強いものとの共存を描いていますので、もう一声、テクスチュアや質感がしっかり作り込めていたらとは感じました。