対象建築:ホテル+多目的商業施設
「Harmony-linna」は、エストニア語の”Harmony(融和)”と、タリンの語源とされる“Taari-linna(デンマーク人の城)”を組み合わせた造語で、「融和の城」を意味する。
隣接するパタレイの負の歴史、エストニアの美しい空や雪と融和する建築を目指した。
計画敷地に広げられたホテルと商業施設を、周囲の風景や天気の変化を映し込むガラスのファサードで包み込んだ。
エントランスからバルト海への眺望を結んだ軸上に、吹き抜けの通路を設けた。その上部ではカーテン状に連なったファサードと同じモチーフが、人々の活動や光の変化を映し出す。
刻々と表情を変えるファサードと、活動が乱反射しているような活気ある内部空間で経験する一時は、観光地としての思い出以上に心に残るだろう。
美しく、しかし暗い歴史を含んだこの地の風景を煌めきながら映しこみ、この建築はその歴史を未来へとつなぐ架け橋となる。
講評
私は建築デザインに関しては素人ですが、少なくともこの建築物のビジュアルは素敵だと感じましたし、映像を手掛ける人間としては撮影のしがいがあるビジュアルだと思いました。実際、本ムービー作品中にも、この建築ビジュアルを活かす良いショットが幾つもあると感じます。特にラスト1:21〜の月夜のエンディングショットは秀逸ですね。ただ、幾らでも格好いいショットが撮れるデザインであるだけに、あれもこれも見せたいとなってカット数が多くなりすぎていて、結果として各カットの秒数が短くなりすぎ、せっかくの雰囲気が伝わらない、観ている方も世界に浸れないことになってしまっているのが勿体ない印象です。カット数は今の半分もあれば充分だと思います。オープニングのショットなども、せっかく空だけという思い切ったアングルから始めて建築物へとカメラを振っていてとてもスタイリッシュなので、本当ならあと3秒位、ガラスファサードを舐めるように見せてこの観客の心を冒頭で掴んでおきたいところだった気がします。そして、非常に重要なこととして、今回のポイントであるパタレイ旧要塞監獄とこの新しい建築物がどういう関係性になるのかが示される演出がほとんど見受けられないことが、映像作品としては大きな欠点と言わざるを得ません。例えばですが、このガラスのファサードに映るパタレイがどんな風に見えるのか、ガラスを通して見えるパタレイがどんな風に見えるのかなどの表現が見たかった気がします。