牧田光
大成建設株式会社
対象建築:戸建て
騎馬民族であるモンゴルでは「モンゴル人は馬上で育つ」「モンゴル人の足は四本」と言われるほど古くから馬と深い絆で結ばれている。
それは今も昔も変わらない“モンゴルらしさ”である。
そこで、モンゴルの広大な大地を活かした馬小屋兼戸建て住宅を提案する。
「広大な大地へ開いた建築の形態」
SPREADと名付けたこの建築は大地に向かって走り出すような方向性を持つ。
屋根に傾斜をつけることで2Fには開放的なLDKと落ち着いた居室が配置される。
建築の方向性は10戸全て統一し放射線状配置にすることでモンゴルには新しい印象的な住宅群を形成する。
「馬と同じ屋根の下で過ごす」
モンゴルを代表する動物であり家族の一部である馬と過ごす。
1Fは馬小屋と作業場・倉庫が一体になり居住者が自由に活用できる。
「シェアする広大な庭(大地)」
移住文化であるモンゴルではご近所付き合いが定着していない。
各家庭の馬が人を繋げる媒体となり豊かな住環境を生み出す。
講評
「すごく面白いアイデアと表現の工夫をされているのに、それが効果を上げていない」という典型的な例で、非常にもったいなく感じます。私は初見ではまず、解説文などを読まずまっさらの状態で見るようにしているのですが、その際には正直、全くコンセプトが頭に入って参りませんでした…。二度目にまず解説文を読んでコンセプトを理解し、三度目でようやく、ギミックや表現手法の面白さに目が行ったという感じです。まず冒頭「SPREAD」という単語にかなり比重をおいたオープニングですが、SPREADという言葉単体では、必ずしも英語圏の人は、意図されているようなポジティブな広がりを感じない気がします。そのため冒頭から「?」が浮かんでしまう印象です。0:08のドローイングタッチのムービーはギミック、そして構造解説としての機能という両方の意味でとても効果的…になるはずなのですが、冒頭の「?」への答えを頭の中でまだ探している状態なのと、下に振られた字幕的テロップの内容が「馬小屋兼戸建て住宅」という、あまりに日本人の日常から乖離したコンセプトで咄嗟に頭が追いついていかない(笑)ことで、頭と心に入ってこないまま通り過ぎてしまう印象です。非常に突出したコンセプトなので、ここは一度、もう、黒地に白文字テロップだけでまず「馬と共生する」「馬小屋を兼ねた戸建て住宅」みたいなものを各3秒位ずつしっかり読ませてから入る方が良いのではないでしょうか。コンセプトが充分に興味を引くものだと思いますので、頭で掴んだらあとはしっかり見せられる気がします。「住居のタイプは?」「南北方向に抜ける住宅は?」「1Fの作業場は?」などのテロップも、映像からの情報である程度伝わることですし、興味を持ったらあとで説明すれば済む情報だと思うので、じっくり画を見せるためには邪魔のように思います。また、せっかく面白い映像的ギミックをいくつか使われているのですから、それらをしっかり見せることも含め、もっとカット数を減らし、且つ、カメラワークをゆったりとさせるべきと思います。せっかく、ドビュッシーのアラベスクがゆったりとした時間感覚を作ってくれているのに、カメラ移動のスピードが速すぎてその効果を壊してしまっています。それから、0:32?のショットのような、カメラが物体を通り抜けるような移動は、安っぽくなってしまうので避けたほうがよいでしょう。基本は、現実世界で物理的に不可能なカメラワークは観る者にとって受け入れづらいのでおすすめできません。それにしても、何度か観るといろいろ工夫されているのを感じるので、テロップを含め取捨選択をしっかりして落ち着いた演出にしていくと格段に良くなる作品だと改めて思いました。